【マッチング事例のご紹介】シンガポールのビジネスで実る京都発の最先端AI技術

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アジアと関西企業におけるビジネスの創出、経済の活性化を支援するという趣旨で、さまざまな角度からのビジネスマッチングに力を入れているのが、関西経済連合会が進めるアジア・ビジネス創出プラットフォーム(ABCプラットフォーム)である。今回は、シンガポールでのビジネスニーズと、京都の最先端AIテクノロジーが結びついた実例をご紹介したい。

日本茶とシンガポールの興味深い関係。


日本茶は世界的な健康志向の中でも、人気が高い輸出品である。特に緑茶の輸出は増え続けており、国別に見ると、アメリカ、ドイツ、シンガポールがベスト3の輸出国だという。アジア圏であれば、シンガポールについで台湾も緑茶の輸出量が多い国だが、金額ベースでみると、シンガポール向けは1トン当たり310万円なのに対し、台湾向けは1トン当たり110万円(2016年財務省データ)と価格に差がある。これはシンガポール向けの緑茶の方が高級品が多いことを示している。
シンガポールで、日本茶は「おいしい」「健康に良い」「低カロリー」というイメージで捉えられているという。しかし、実態は家庭で日本茶を飲む人は意外と少ないようで、スーパーに行くと茶葉よりもペットボトル入りのお茶のほうが目を引く。日本茶に対する認識が十分に広まっていないことも事実である。つまり、まだまだ“伸びしろ”があると期待されている輸出品ともいえる。

日本茶をもっとシンガポールで広げたいというプロジェクトが始動。


そのような背景のもと、在阪メディア企業である朝日放送グループのシンガポール現地法人のABC HORIZON社に、“日本茶のプロモーションを実施したい”という依頼があったという。
ABC HORIZON・マネージングディレクターの奈良修氏にお話を伺った。
「日本茶の企業から、海外展開の一環として、シンガポールで日本茶のプロモーションをやりたいというお話をいただいたのです。そこで、弊社の現地スタッフを中心に日本茶PRのプロジェクトを組むことにしました」
ABC HORIZON・シニアアカウントマネジャーの二階堂浩士氏に続けていただく。
「その日本の会社は、シンガポールにも支社をお持ちだったので、シンガポールにおける日本茶のポジションはよくご存知でした。そこで、ペットボトルではなく、急須で入れる本格的な日本茶の啓蒙サイトを作ろうということになりました」
それは、シンガポールの人たちが、家族そろって急須で入れる美味しい日本茶を楽しむというイメージを広げるためのサイト作りから始まった。
写真左から)株式会社データグリッド 代表取締役CEO 岡田侑貴氏、ABC HORIZON シニアアカウントマネジャー 二階堂浩士氏、ABC HORIZON マネージングディレクター 奈良修氏

しかし、コロナ禍で、企画は軌道修正を余儀なくされることに。


日本茶を楽しむというPR企画としては有意義な企画だったが、長引くコロナ禍で、軌道修正を余儀なくされることになった。二階堂氏に当時を振り返ってもらった。
「最初は、メインビジュアルとしてシンガポールならではの多国籍な家族が急須のお茶を楽しんでいるシーンを撮影する予定でした。しかし、コロナ禍の影響もあり、大人数が集まっての撮影は困難という判断になり非常に困りました。サイトづくり自体は順調に進んでいたのですが、サイトの顔となる“家族が急須のお茶を楽しむイメージ”づくりが、座礁に乗り上げたという印象です。それでも、今回のプロモーションにとって、一番ぴったりくるビジュアルが日本茶を楽しむ家族写真だっただけに、どうにか実現したかったのです」
そのため、モデル撮影以外の方法で、このメインビジュアルを作成する方法を模索し始めたという。

そこで、ABCプラットフォームに新たな活路を求める。


その時、奈良氏は、最新のデジタル技術を駆使すれば、この難題をクリアできるのではないかと軌道修正を考えていた。
「我々としては、この家族の写真は、どうしても実現したかったので、デジタル技術を駆使してどうにかならないかと考え始めていました。その時に、ちょうど、ABCプラットフォームのビジネスマッチングがあることを知りました。そこで、この解決にふさわしい企業との出会いを求めてみることにしたのです」
ABCプラットフォームは、さまざまな角度からのビジネスマッチングに力を入れている。今回は、シンガポールで日本茶プロモーションを展開する上での必要なテクノロジーを持った企業との出会いを支援することになった。
「ABCプラットフォームから、京都の株式会社データグリッドという会社をご紹介いただきました。この会社は京都大学出身者により設立されたスタートアップ企業で、デジタルヒューマン生成というシンセティックAIを使った技術をお持ちでした。今回はこの技術を活用させていただくことで、多国籍のモデルさん達を集めて撮影したのと同様の家族写真を完成させることができました。コロナ禍で、撮影ができずに暗礁に乗り上げていた難問をAIの力で見事に解決することができたのです。お陰でシンガポールでの日本茶のPRプロモーションは無事成功させる事ができました」
このデジタルヒューマン生成という技術で作成された“家族が急須のお茶を楽しむイメージ”の写真を拝見したが、まるで、実在する多国籍のモデルを使って撮影した写真のような完成度の高い画像であることに驚いた。

難問を見事に解決したシンセティックAIという技術。


シンセティックAIとはどういった技術なのだろうか。株式会社データグリッド・代表取締役CEOの岡田侑貴氏にお聞きした。
「今回のご相談は、モデル撮影をすることなく、シンガポール特有の多国籍の人たち・家族をビジュアルとして再現できないだろうかというご相談でした。これを可能にしたのが、当社のデジタルヒューマン生成という技術です。これは、当社が開発していますシンセティックデータ生成を中心とした多様なAIモジュール群のひとつで、デジタル空間の中に、さまざまな人種・年齢・性別の人たちをモデリングすることを可能にした技術です」
つまり、多国籍のモデルを集めて撮影をしなくても、AIという技術がそういう架空の人間の画像、それも撮影した写真のようなリアルな画像を生成してくれるということのようだ。これは凄い技術である。

ASEANに向けた更なるビジネス展開の可能性。


「今回は実在するご家族の写真をベースに、顔だけを生成して交換したのですが、もちろん全身をAIで生成することも、さまざまなポーズを付けることも可能な技術です。また、服のデータを用意すれば、服を着せ替えることもできますので、現在は、オンライン上での試着を可能にした“バーチャル試着”というサービスも提供し始めています」
バーチャル試着というワードに、奈良氏から質問が飛んだ。
「岡田さん、そのバーチャル試着というのは、ECサイトで利用できる技術なんですよね。具体的にはどのようにして試着できるのでしょうか?」
「はい、まず、 ご自分の全身写真を撮っていただいて、我々が用意した専用のサイトにアップロードして頂きます。次に、試着したい服を選んで頂きます。そうすると、その服が自分の写真に合わせて、まるでその服を着ているような画像が生成され出力されます。これは、写真の身体にうまくフィットするようにAIがうまく調整をして、服の画像を変形・調整させているんです。ネット通販などリアルな試着ができない環境でも、まるで試着したかのような服選びが可能になりますので、ECでの新しい販売方法として定着するのではないかと考えています」

シンガポールは、東南アジアトップクラスのEC市場でもある。


シンガポールへ旅行された方ならご存知だろうが、空港はもちろん、ショッピングセンター、カフェなど、街中のいたるところに無料Wi-Fiスポットが普及している。シンガポールは総人口の約9割の人たちがインターネットを利用しているともいわれているネット先進国なのだ。さらに、クレジットカードなどキャッシュレス決済の普及率も高く、そうなると、当然、ECサイトの利用も日常的になる。奈良氏が、バーチャル試着に反応したのもうなずける。
現地に住む二階堂氏に、そんなシンガポールのEC事情について聞いてみた。
「シンガポールでは、大手のECサイトが林立していて、みんなが気軽に利用するのは当たり前で、独特のEC活用文化が芽生えています。例えば、若い方にECサイトでの服の買い方を聞くと、気に入った服があるとサイズ違いで 2種類買うそうなんです。MとSを買っておいて、 届いた服を着てみてMがピッタリなら、Sを返品するという具合いですね。服以外にも靴でもそうしているらしいです」
さすが、東南アジアトップクラスのEC先進国である。ECが生活に自然と根付いているのだろう。日本の製品はECでも売られているのだろうか。
「衣類をはじめ日本製品も人気ですよ。日本のショッピングモールでよく見かけるブランドも多いですね。日本の主要ブランドを取り扱うECサイトもあります。なので、バーチャル試着は良いと思いました。服を仮想空間で試着できるのはとっても新しいですし、いまのシンガポールにはないシステムですし、新しいテクノロジー好きのシンガポールの人たちにも、受け入れられるのではないかと思います」

今度はシンガポールの若者文化にアクセスして行きたい。


バーチャル試着の今後の展望について岡田氏に聞いてみた。
「静止画ベースだとある程度の品質が出るようになってきましたので、あとはこれを動かして使いたいというニーズをいろんな会社からいただいています。まさにメタバースの時代ですから、試着も静止画 だけではなく、着たまま一周回ってみたいということになっていきますよね。次のステップとして、そういう 3Dでの動画化も取り組んでいるところです。ちょっと技術的な話になりますが、先ほどのシンセティックAIというのは、GAN(Generative Adversarial Network:敵対的生成ネットワーク)をという技術があって、これをベースとした、独自のAIモジュール群やAPI、インターフェース等からなるプラットフォームです。このシンセティックAIを活用することで、さまざまなアプリケーションが短期間、低コストで開発できます。これが我々の強みでもあります。このアプリケーションというのは、人間なら画像や映像だけでなく、会話などの音声データの生成も可能です。人間以外では、自然環境を再現して農作物の収穫予測に役立てたり、交通環境を再現して自動運転車の開発に応用することも可能です。さらに、生産工場での機器の制御ミスを再現して予防策を作成することもできるのです」
なるほど、シンセティックAIの活用範囲は人間だけにとどまらないようだが、このバーチャル試着は、すでにパッケージ化して販売することが視野に入っている段階ということなのだろう。もう一度、データグリッド社とABC HORIZON社の共演が始まりそうな予感もしてきた。そのあたりをまずは奈良氏に聞いた。
「そうですね、我々も是非チャレンジしたいです。ABCプラットフォームを通じて、タイムリーにいい企業と出会うことができました。両社のビジネスの趣旨も非常に合っていると感じています。これからも、日本のスタートアップ企業の海外進出のお手伝いができれば我々としてもやりがいがあります。当社は、もともとコンテンツを作る会社が母体です。朝日放送のグループ会社というアドバンテージを活かせていけたらと思います。データグリッドさんの技術を使って、動画で3Dのイメージ生成すると、こんなソリューションができますよ、という提案をアジアの市場に対してどんどんやっていきたいですね」

最後に岡田氏に締めくくっていただいた。
「バーチャル試着は、もうパッケージになっていますので、メッセージを英語化する作業はもちろんありますけど、海外でも使っていただけるものになっていると考えています。我々が作っているものは視覚に訴えるものがメインですので、言語の壁は低く、海外進出がしやすいという点もメリットなんです。今回は、ABCプラットフォームを通じてABC HORIZON社との出会いがあり、日本茶のプロジェクトという新しい取り組みに参加することができました。この仕事を通じて、お互いの理解が深まったかなと思っております。そして、ここからまた新しいビジネスチャンスが、シンガポールや東南アジアで広がりそうだという期待も生まれました。私達も自らの技術を高めるために協業先を探したり、当社の技術やビジネスを広げるためにABCプラットフォームのような取り組みを活用していきたいと思います」

■今回お話をお聞きしたキーマン
ABC HORIZON マネージングディレクター 奈良修様
ABC HORIZON シニアアカウントマネジャー 二階堂浩士様
株式会社データグリッド 代表取締役CEO 岡田侑貴様

■マッチングさせていただいた企業のプロフィール
ABC HORIZON
朝日放送グループの一社として、放送・コンテンツ事業の強みを活かしながら、東南アジアを中心としたグローバルビジネスを導く架け橋としての役割りを担う企業。シンガポールに本社を置き、最先端技術を活用した新しい事業領域を開拓。コンテンツ事業、エージェンシー事業、スタートアップのリサーチ&コンサルティング事業を展開している。

株式会社データグリッド
「すべてのデータに、命を与える。」というミッションのもと、世の中にあるさまざまなデータをより価値の高いものに変えることで、デジタル社会への貢献を目指している。京都大学国際科学イノベーション棟に本社を置き、さまざまな大手企業との共同プロジェクトを組成し、シンセティックAIを活用したソリューションの共同開発やAIプロダクトの提供を行っている。

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